軽自動車
〜後編〜
ふと一つしかない出入り口を見ると、その出入り口をふさぐ形で軽自動車が停車していた。全身総毛だった。
俺『どうしよ。なんか待ち伏せしてるみたいやで・・・。』
Aに喋りかけたがAは先ほどからうつむいたままこちらを見ようともしなかった。もともと気の強い方ではないAの事だ。かなりテンパッる事は見ても分かるとおりだった。俺がしっかりしなきゃいけない。
それよりも先ほどぶつけられている事も気になっていた。傷でも付けられていたら弁償してもらわなきゃいけない。立派な接触事故だ。
怯えてテンパッてるAを見ているのとぶつけられ煽られた事に腹が立ってきた俺は、なんであんなのにこっちがおびえなきゃいけないんだという気になってきて恐怖より怒りが前に出てきた。
俺はAに
俺『ちょっと文句言ってくる。』
と、捨て台詞をはいて車から降りて軽自動車の方へ歩いていった。もちろんAは物凄い剣幕で反対してきたが降りてしまえば関係ない。何でも出てきやがれって感じで怒りを前面に出して相手のほうへ歩いていった。
軽に近づいて不思議に思ったが、中にどんな奴が乗っているか分からない。前面までスモークフィルムを貼ってるのか?とか馬鹿なことを考えながら軽自動車の運転席の窓ガラスをノックした。
すると、運転席側の窓がすーっと開いた。中を見た俺は一瞬目を疑ったがもう一度じっくり確認してそして・・・。一目散に車のほうへ逃げ帰った。今まで生きてきた中で一番早く走って一番大きな声を出しながら・・・。
車の窓が開いた時、中には・・・・
人が乗っていた。いやそもそも人なんだろうか。それも何人も。
4人乗りの車に5人とかそんなに生易しい物ではなかった。もうギュウギュウ詰め、例えるなら通勤ラッシュの満員電車状態である。
隙間がないくらいびっちりと狭い軽自動車の車内が人で埋まっていたのである。上下左右人の向きは関係なくテトリスで隙間なく積み上げていくブロックのように・・・。しかも全員顔色が真っ青で目が空洞の様になっていた。老若男女いろんな人・・・。その苦しそうな体勢の人たちが一斉に窓の外に立っている俺のほうに顔を向けているのである。首が180度回っている奴もいた。
結局中が見えなかったのは人で車内が埋まっていたからである。
車に戻ると慌てて車を発進させた。Aは何も言わずうつむいてガチガチ震えていた。恐怖でパニクってた俺はとにかくこの駐車場から出なきゃいけない、逃げなきゃいけないと思い、強引ではあるが出入り口に止まっている軽と柵の間のスペースに車を滑り込ませて無理矢理すり抜けようとした。左の柵に当たった。
バリバリといやな音を立てて車と柵が悲鳴を上げた。しかしそれどころじゃなかった。隣にある軽の方を見ないようにして思いっきりアクセルを踏んだ。
車の頭が駐車場から道に入った瞬間、ついうっかり右を見てしまった。視界に軽自動車が入った。中の人が全員こちらを見て笑っているように見えた。
そこで物凄い衝撃を食らって意識がなくなった。
気付いたら病院だった。
結局、駐車場から車の頭を物凄い勢いで出した俺の車に普通に走ってきた車が俺の車のフロント部分横へぶつかったのである。Aは頭を打ったらしいがほとんど外傷がなく軽い打ち身があちこちにあるくらいで無事だった。俺は開いたエアバックに思いっきりぶつかったせいなのだろうか?鼻骨折して前歯が3本ほど折れて、足もどうやったのか分かんないけど右足の骨にヒビが入っていた。打ち身も体のあちこちに出来ていて熱が出てしばらく入院を余儀なくされた。
相手の方は20過ぎの女性で無傷だった。お互いに車はボコボコだったけど・・・。結局警察と保険屋が入ってお互い話し合いして決着は付いた。
後日、退院できるかなといった時に事故った相手の女性が見舞いに来てくれた。相手の女性に軽自動車の事を聞いたらそんな車はいなかったと言われた。
先に退院したAはやはり前に走っている時からあの軽自動車の中身が分かっていたらしい。俺が見てないのなら俺にまで変な恐怖を味合わせたくなかったから黙っていたらしい。
車は直せない事もなさそうだったけどなんだか縁起が悪そうだから廃車にした。
退院はできたけど打ち身の痣がしばらく消えなかった。なんだか痣の形が手のひらで叩いた後のようになっていた。それも大きい物から小さい物までたくさんの人に叩かれたようになっていた。ちなみにAの体に出来た打ち身もそんな感じだったらしい。
Aは財布の中に入れてあった母親から貰った身代わりお守り(?そんなようなもんがあるのかな?)が粉々に割れていたとも言っていた。結局、手の形をした痣もそれも時間はかかったけど今ではすっかり綺麗に直った。
オチも何もないけど洒落にならんかった。怖かった。あの軽自動車もなんだったか分からない。今でも車を運転していて後ろを煽られるとあの時の事を思い出す。
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