机の穴

私が小学生の時に経験した出来事です。

修学旅行の班を決める時、Tさんは一人あぶれてしまった。

先生「は〜いみんな注目!、どこかTさん入れてやって下さい〜」
クラスのみんな「え〜〜」

そう、すでに仲の良い人同士で班はできあがってしまい、Tさんの入る余地は無かったのだ。教壇の前で一人黙ってうつむきながら立ち尽くすTさん。一番前の席だった私はTさんの方をそ〜と見てみた。ぽたぽたと大粒の涙を落としている。更に追い討ちをかけるように

先生 「は〜い、決まらないと旅行行けなくなりま〜す」

急速にクラスの雰囲気が悪くなってきた。

「Tのせいで帰れないし〜」
「ほんと使えない奴〜」

もうTさんは今にも倒れそうなくらい真っ青な顔だ。心なしか震えてもいるようだ。そんな状況が30分ほど続いた。

先生 「今日はここまでにしましょう。みんなTさんの班を考えておくように」

先生が教室から出た後、みんなはTさんに詰め寄った。

「お前なんなんだよ」
「お前がもたもたしてるからみんな迷惑してんだよ!」

次々に罵声が飛ぶ。じっとさっきから直立不同の同じ姿勢でうつむいているTさん。

「もういいや帰ろ!」

みんなが帰り始めてもまだTさんは立ったままだ。私も帰ろうとした時、小さな小さな声が聞こえてきた。

「殺してやる 殺してやる」

次の日、Tさんは学校を休んだ。その次の日も又その次の日も。結局Tさんがいないまま、修学旅行当日になってしまった。皆はしゃいでいてTさんの事など気にも留めていない。みんながバスに乗りこんだ後、私は教室に忘れ物をした事に気がついた。

「先生、教室に戻って取ってきていいですか?」
「遅いと置いて行っちゃうよ、そしたらお前だけ走って来い」

定番のつまらない突っ込みにもみんなテンション高くて車内で笑い声が響き渡る。みんな本当にTさんの事は忘れているようだ。急いで戻り教室に入ろうとした時、教室内に人影があるのに気づいた。「カーン、カーン」という変な音も聞こえる。

私は教室に入ることは出来なかった。そこにはパジャマ姿で髪を振り乱したTさんが、一人一人の机にワラ人形を打ちつけていたからだ。

職員室に向かって全力で走った。違う学年の先生しか居なかったがかまわず、

「あっ、あっあの、教室でTさんがっ、」
うまく説明できない。
「どうした、ん、6年は修学旅行だろ」
「Tさんが。」

それしか言えない。私の様子がおかしいのを察してくれたある先生が来てくれる事になった。先生と一緒に教室へ向かう私。だんだんとあの「カーン、カーン」という音が聞こえてくる。

先生 「何の音だ?」
私 「・ ・ ・」

教室に着いた。ガラッと戸を開け、

先生 「誰だ残ってるのは!早くバスに乗れ!」

異様な光景が広がった。教室にある全ての机にワラ人形が打ちつけてある。先生の机にも。ずらりと奇麗に並んだワラ人形は誰も居ないカーテンを閉めた薄暗い教室との相乗効果でただ恐怖としか表現できない。Tさんは私の机の前に立っていた。パジャマ姿で髪を振り乱し右手にハンマーを持って。脇には荷物が散乱している。私の机の上には忘れものの荷物があったので最後にワラ人形を打ちつけたらしい。

先生 「何してるんだ!!」

Tさんはこちらを向き、にこっと微笑みかけた。そしてフッと消えた。先生と私の見てる目の前で。

先生 私 「・ ・ ・」
「どうしたどうした、バスが待ってるんだぞ!」

その時、担任の先生がようやく来た。そして教室を見て固まってしまった・・・。しばらくして先生達がひそひそ話を始め、私をちらりと見た。担任の先生が私に歩み寄り、

「大丈夫。もういいからバスに乗って。この事は修学旅行が終わるまで黙ってて」

1時間遅れでバスは出発し、修学旅行自体はそれで何事も無く終わった。私は並んだワラ人形とTさんの不気味な微笑みが頭から離れず、少しも旅行を楽しめなかった。

修学旅行が終わり登校すると、Tさんの机の上に花瓶が置いてあった。

「Tさん死んだんだって」
「マジで!」
「TVみたいに本当に花机に飾るんだ、怖え〜」

Tさんは修学旅行当日の朝、自分の部屋で首を吊ったそうだ。教室はどよめいていた。 が、私はじゃああの時のTさんは一体?などと考えていた。先生が、

「はい、みんな席に着く!」

席に着いた。これから体育館で全校集会があるとか、誰かに何か聞かれても知らないと答えなさいとか、そんな話を聞いていた。突然、誰かが

「なんか机に穴が空いてるんだけど」

と言い出した。直ぐに教室中に広まり、俺も、私もと大騒ぎになった。私はなぜ穴が空いているのか知っていたので黙っていた。

先生 「旅行中に教室でちょっとした工事があってその時の穴です。使いづらい人は換えるので手を上げて」

何人かが手を上げたが、交換には何日かかかるらしい。私はなにか現実ではなく夢を見ているような気分でいた。そう簡単に人が死んだり、ワラ人形が出てきたりするわけが無い。

「 ・ ・ ・」

何かが聞こえたような気がした。耳に全神経を集中して探す。誰かの声のようだ。どこから?直ぐ近くだ。ハッとした。私の視線は机の穴にくぎ付けとなった。恐る恐る耳を穴に近づける。

「殺してやる 殺してやる」

と小さな小さな声が穴の中から聞こえてきた。
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