八百屋の旦那
〜後編〜

次の日から学校が始まり、また忙しくなった。フィルムのことも気にはしていたがあれから八百屋の旦那さんからの連絡もなく、まぁ1週間ぐらいはいいだろうとそのままにしておいた。

ところが直に事態は急変した。近所に住む同級生が電話して来たのだ。彼は家計を助けるために新聞配達のバイトをここ1年ず〜っとやってきた真面目なやつだ。

「この間、お前がいっていたそのマンションどこ?」

とちょっと声が上ずっている。

「あぁ、Tストアの上、N町会のところの。」
「そっか、あそこか・・・。やっぱりなぁ。こんなことってあるのかなぁ。」
「どういうことよ?」

すると彼は興奮して話し始めた

「あそこなぁ、俺ともう一人の先輩の担当なんだけど、料金回収のときにさ。俺たちが発見したんだよ。」

僕も薄々は察してはいたが

「何を?」

と聞くと

「死体だよ。そこのご主人の・・・。自殺した死体。」
「(やっぱり・・・)それでどうしたんよ?」
「すぐ警察呼んで事情聴衆。まぁ明らかに自殺だったんだけどね。首吊りの。」
「げ、すごいの見たね。」
「あぁ、後で聞いたんだけどそこのご主人は脳に腫瘍ができていたらしく、それが原因で神経が失調していたそうだよ。まぁ狂っていたんだって。奥さんと子供が逃げ出して近くに住んでいるみたいだけどね・・・」

・・・それを聞いてなにか不味いという気がした僕は前にもらったフィルムをすぐに現像に出すことにした。休日の朝のことだったので、夕方には現像が終わるということだった。写真を受け取りに行くときに僕はちょっと怖くなったのでその友人(他にも4〜5人いた)にも一緒に来てもらった。

現像された写真を僕たちはみて驚いた、というか信じられなかった。写っていた。

男の人となにか小さい人影がいっぱい。

男の人は人間のデザインではあったが底辺と上辺がずれた(平行四辺形)ような感じにずれて写っていた。パジャマのようなものを着ていた。腕は下にダランとたらして、足はまるで波に流れたような状態で曲がっていた。顔は普通のおじさんだが、目は黒い穴、口はだらしなく垂れ下がり微妙にゆがんでいた。その足元には・・・ちょっと信じられないが20センチぐらいの・・・小さな武士?とういか着物をきた男?たちが手に刀のようなものを持ってその男の周りに12〜3人ほど立っている。

「これ本物・・?」

と友人たちはちょっと恐怖が見える表情で話している。

「どうしようか・・?これ持っていっていいものだろうか?」

とそのとき内心そう思った。正直、あまりにもあまりな写真なんで、からかっているのか、冗談にもほどがあると思われてしまうのではないかと考えたからだ。 あの奥さんの顔を思い出したらちょっとこれは面白半分でも持ってはいけない。そのときはそう思った。

でも・・・それがあんな町内が大騒ぎになってしまうような幽霊話になってしまうなんて・・そして、人が一人死んでしまうなんて・・・思わなかった・・・・

後述するようなことが起きたあと写真は学校の先生に渡した。友人たちと話あって決めたことだった。今から思えばなんでっと思うのだが、当時こんな異常事態を相談できる身近な大人は先生ぐらいしかいなかった。持ってちゃまずいような気がしていた。先生は笑いながら受け取った、一応理由は説明したがおそらく信用はしていなかったと思う。写真はそのあとどうなったかは知らない。ネガもない。

一ヶ月ほどして、いろいろなことがおき始めた。八百屋の旦那の様子がおかしくなっていったらしい。なにかブツブツつぶやいているそうで気味悪がってお客が来なくなってしまいだした。例の部屋にはその男が相変わらず現れ続けているらしく、台所で奥さんが調理をしていると冷蔵庫と壁の隙間から1mぐらいの妙に歪んだ首をだしてじ〜っと彼女をみていたり、また家に帰ると3回に1回は部屋のどこかに立っていてすぅっと掻き消えていくそうだ。 また親戚が泊まりにいたときは、そこの子が夜中泣きながら大人のいる部屋にやってきて

「布団のある部屋で変なおじさんが暴れている」

と言い出し、そのときやっていた能だか歌舞伎のテレビ放送をみては

「こんな人さっき廊下でいっぱい歩いていたよ。」

と怖がっていたそうだ。(これらの話は奥さんが店でお客さんにケラケラ笑いながら話していたそうだ。壊れ始めていたのだろうか?)

それから3ヶ月、その八百屋は閉店した。旦那さんが死んだからだ。その幽霊と思われる前の主人と同じく脳腫瘍をわずらい、気がふれ店で暴れ最期にはその部屋で首吊り自殺をしたのだ。残された奥さんは生まれたばかりの子供をつれて近所にあった実家に戻っていったそうだ。

町内はその話で持ちきりになった。10年たった今でも時々その話が出たりする。そのマンションはまだあるが、誰もすんでいない。近所の人がなにか教えてくれたりしてくれたのだろうか?

その後一度誰か越してきたが、直に出て行ったそうだ。そしてはやりそのときも男の幽霊がでたらしい。ただその男の特徴はどうみても八百屋の旦那だったそうだ。

終わり

あぁ、書いてしまった。100パーセントの実話です。
⇔戻る