旅館の求人
〜後編〜

駅を出て仕方なく家に戻る。すると体の調子が良くなってきた。声も戻ってきた。鏡を見ると血色がいい。私は不思議に思いながらも家に帰った。 荷物を下ろし、タバコを吸う。落ちついてからやはり断わろうと旅館の電話番号をおした。すると無感情な軽い声が帰ってきた。

「この電話番号は現在使われておりません、、」

押しなおす

「この電話番号は現在使われておりません、、」

私は混乱した。まさにこの番号で今朝電話が掛かってきたのだ。おかしいおかしいおかしい。。。私は通話記録をとっていたのを思い出した。最初まで巻き戻す。、、、、、、、、、キュルキュルキュル、、、、、     ガチャ

再生

「ザ、、、ザザ、、、、、、、、はい。ありがとうございます。○○旅館です。」

あれ、、?私は悪寒を感じた。若い女性だったはずなのに、声がまるで低い男性のような声になっている。

「あ、すみません。求人広告を見た者ですが、まだ募集してますでしょうか?」
「え、少々お待ち下さい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、・・い、・・・そう・・・・だ・・・・・・・・」

ん??私はそこで何が話し合われてるのか聞こえた。巻き戻し、音声を大きくする。

「え、少々お待ち下さい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、・・い、・・・そう・・・・だ・・・・・・・・」

巻き戻す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ザ、、、ザ、、ザザ、、、、、むい、、、、こご、そう・・・・だ・・・・・・・・」

巻き戻す。

「さむい、、、こごえそうだ」

子供の声が入っている。さらにその後ろで大勢の人間が唸っている声が聞こえる。うわぁ!!私は汗が滴った。。電話から離れる。すると通話記録がそのまま流れる。

「あー、、ありがとうございます。こちらこそお願いしたいです。いつからこれますか?」
「いつでも私は構いません」、、、

記憶にある会話。しかし、私はおじさんと話をしていたはずだ。そこから流れる声は地面の下から響くような老人の声だった。

「神尾くんね、、はやくいらっしゃい」

そこで通話が途切れる。私の体中に冷や汗がながれおちる。外は土砂降りの雨である。金縛りにあったように動けなかったが 私はようやく落ちついてきた。すると、そのまま通話記録が流れた。今朝、掛かってきた分だ。しかし、話し声は私のものだけだった。、、、、、、

「死ね死ね死ね死ね死ね」

「はい。今準備して出るところです。」

「死ね死ね死ね死ね死ね」

「あ、すみません、寝起きなので」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「あ、、だいじょうぶです。でも、、ありがとうございます。」

私は電話の電源ごとひきぬいた。かわいた喉を鳴らす。な、、、、なんだ、、、なんだこれ、、なんだよ!? どうなってんだ??私はそのとき手に求人ガイドを握っていた。震えながらそのページを探す。すると何かおかしい。

、、ん?手が震える。。そのページはあった。綺麗なはずなのにその旅館の1ページだけしわしわでなにかシミが大きく広がり少しはじが焦げている。どうみてもそこだけが古い紙質なのだ。まるで数十年前の古雑誌のようだった。そしてそこには全焼して燃え落ちた旅館が写っていた。そこに記事が書いてあった。

『死者30数名。台所から出火したもよう。旅館の主人と思われる焼死体が台所でみつかったことから料理の際に炎を出したと思われる。泊まりに来ていた宿泊客達が逃げ遅れて炎にまかれて焼死。』

これ、、なんだ。。求人じゃない。。私は声もだせずにいた。求人雑誌が風にめくれている。私は痺れた頭で石のように動けなかった。そのときふいに雨足が弱くなった。。一瞬の静寂が私を包んだ。



電話がなっている
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