歪な形の饅頭

つい今しがた夢を見たんだ。すっげぇリアルな夢。

懐かしい、爺ちゃんの夢。もう死んじゃってこの世にはいないんだけど。久しぶりに地元に帰省したって事で友達と一緒に飲んでたんだ。それでどういう訳か俺の爺ちゃんの話になって。

「よくお前の爺ちゃん俺達にも小遣いくれたよなー」

とか、他愛も無い話なんだけどね。

話してる内に皆寝ちゃって、俺もそろそろ寝るかーって横になったんだ。すぐに眠気に襲われて、気づいたら何故か自分の家にいてさ、あぁ、これは夢なんだって思った。

だって、死んだはずの爺ちゃんが一人でテレビ見てるんだもの。そんでこっち向いて

「一緒に見るかー?」

なんて言われたんだ。

この時点でほんのちょっと泣きそうになった。爺ちゃん、俺が何も恩返しできない内に逝っちまったから…で、せめて夢の中だけでも…って思って勝手ながら恩返しさせて貰う事にしたんだ。

俺、製菓の専門学校通ってるから饅頭でも作ってやろうかと思って爺ちゃんに

「ちょっと待っててくれよ」

って言って台所に行ったんだ。そしたら都合良く漉し餡が用意されててさ、生地作って蒸すだけでよかったんだよ。で、案の定すぐ完成したんだ。

それで、爺ちゃんに

「食ってくれよ」

って言って爺ちゃんの前に置いたんだ。

爺ちゃん、暫くは怪訝な顔で俺と饅頭交互に見てて食べてくれないんじゃないかって不安になったんだけどさ、急にあぁ、そうかって顔になって、食べてくれたんだ。

俺の作った饅頭さ、スーパーで売られてるやつみたいな綺麗な形じゃなかったんだけど、爺ちゃんは

「うまい、うまい」

って言いながら食ってくれた。

それを見てたらさ、夢の中なのに涙が溢れてきて止まらなくなったんだ。爺ちゃんに泣きながら必死に謝ったよ。

「今まで酷いこととか言ってごめんな、通夜でも葬式でも寝ててごめんな」

ってさ。爺ちゃんは

「いいんだよ、気にしてないから。お前はよく寝る子だったからな、むしろホッとしたよ」

って言ってくれたんだ。そんな事言われるなんて思ってなかったから、俺、爺ちゃんに抱きついて泣きながら

「ありがとう、ありがとう」

って言い続けたんだ。爺ちゃんはずっと俺の頭を撫でてくれてた。暫くそうしてて、俺が落ち着いてきたら、爺ちゃんが

「さて、そろそろ行かなきゃならん。饅頭、美味かったよ。ご馳走様」

って言ったんだ。俺、こんなことで恩返しできたのかわからなかったから、

「行かないで、もっともっとお菓子作れるんだよ、俺!」

って訳のわからない事言いながら必死に引き留めた。でも爺ちゃん、

「また、食べさせておくれよ」

って言って、笑顔で消えてったんだ。

目が覚めたら友達連中が俺揺すりながら

「大丈夫か!?」

なんて必死で言ってきたもんだから何事かと思ったよ。気づいたら涙流してたんだよ、俺。夢の中で泣いて、現実でも泣いてたんだなぁ。

今、この話を誰かに聞いて欲しくて友人のパソコンで書き込んでます。これ、オカルト体験って言うのかどうかわからないけど、少なくとも俺にとっては不思議な体験。

爺ちゃん、ありがとう。小さい頃親父とかおかんあんまり家にいなくて、両親の代わりに可愛がってくれたよな。小遣いも沢山とは言えないけど、俺にとっては沢山の小遣いだった。ありがとう。

いつか、俺が就職して、給料貰ったら、婆ちゃんを旅行にでも連れてってやろうと思う。その時は、婆ちゃんの隣で笑って、楽しんで欲しいんだ。ちゃんと一緒に来てくれよ。

爺ちゃん、本当にありがとう。出来の悪い孫で本当にごめんな。俺の我侭に付き合ってくれてありがとう。俺、今まで爺ちゃんの死から逃げてた。でも、これからはちゃんと向き合うよ。

俺、あんまり家には帰れないけど、婆ちゃんも元気にしてるよ。だから、爺ちゃんも元気でな。元気でって言うのは変かもしれないけど…元気でいて欲しいんだ。実家に帰ったら、爺ちゃんの好きな饅頭、仏壇に供えるよ。今度は綺麗に作ってビックリさせてやるからな!

最後に…爺ちゃん、今まで本当にありがとう。今更言っても遅いかもしれないけど、本当に、本当にありがとう!

―爺ちゃん、今日も貴方の出来の悪い孫は、元気に楽しく馬鹿みたいに騒いで、馬鹿みたいによく寝てます。

夢といってしまえばそれまでだけど、俺にとっては不思議な体験だった。
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