墓参り
小春日和のある土曜日、友人の墓参りに行ったときのことだ。
その友人とは仲が良く、葬式にもちゃんと参列したが、これまで墓には行ったことがなかった。天気も良いし、暖かい。これといって用事もなかったので、出かけたわけだが、初めての道のりだ。
少し迷うかな?と思っていたが、すんなりと墓のある寺に到着。墓といえど、気の合う友人と久しぶりに会うのだ 足は自然と急ぎ早になる。けれど寺の門をくぐって墓地へ行けば、その墓地の広いこと!友人の家族に聞いておけば良かったと思いながら、空を見上げる。
晴天だ 風もない
「まあ、すぐ見つかるか、苗字は分かるんだし」
と前向きに考え直し、墓地の中を歩く。すると不思議なことに、友人の墓に迷わず到着したんだ。なんだ、案内してくれたのかな?と思いながら、線香を立てようとライターを取り出した。すると今度は火がつかない。
「おい、お前からかってるな? ジントニックやんないよ?」
冗談でつぶやいたら、とたんにボッと火がついた。
現金なその態度に少し笑いがこみ上げて、ジントニックをお供えして、懐かしい友人におれの近況報告。ジントニックのお下がりを頂戴して、ふとその味に首を捻る。濃いめに作ったはずなのに、炭酸の味しかしないんだ。
30分ぐらい経って、もう帰ると呟いたら、
『今度はマティーニにしてくれ』
はっきり聞こえたんだ。友人の声が。
「わかった、次はマティーニな」
笑って答えて、おれはそこをあとにしたんだ。
⇔戻る