義兄の恩師

つい最近、義兄から聞いた話。

義兄は柔道四段で県警の柔術の師範代も勤める猛者だが、義兄が柔道に惚れ込んだ原因となったのは中学の恩師だった。恩師のおかげで柔道の才能に目覚め、大学まで特待生として進学した人。恩師に最後に会ったのは5年前で、ずっと気になっていたが忙殺の日々に追われていた。

その恩師が亡くなったと聞かされたのは、お葬式も何もかも済んでの事だった。その日義兄は、ずっと会えなかった事を悔やみながら、家で柔道着を着込みもう一着柔道着を向かい側に置き、陰膳を供えて泣きながら酒を飲んでたそうだ。

「会いたかったです。せめてもう一度会いたかったです。」

って泣きながら飲んでたが、いつのまにか眠ってしまった。すると夢に恩師が現れ

「久しぶりやな。そやけど、死んだら死んだで結構忙しいんじゃ。気安く呼び出すなやw」

ってニコニコしてたそうです。さらに

「お前には柔道は教えたけど、酒の飲み方は教えんかったな。いいか?酒は泣いて飲むな!笑って飲め。」

って言って、また微笑んだそうです。最後に

「お前、少しは強くなったみたいやけど、常に謙虚にせいよ。心が伴わん奴は誰からも相手にされんぞ。わかったな?」

と、これは真顔で言って消えた。目が覚めた義兄がふと見ると、陰膳の酒が半分なくなってて、柔道着の帯の結び目が明らかに自分のやり方じゃなく、まさに恩師の結び方になってたそうだ。

俺は正直言って、義兄が苦手だったがこの話を最近聞いて好きになった。短気でかなり気性の荒い人だったが、少し穏やかな人になったし。
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