猫からのプレゼント

子供の頃に猫を飼っていた。野良猫だったのを父親が拾って来たらしい。野良生活が長かったせいか、気性が荒くて大変だった。

狩りが得意だったので雀やゴキブリを捕まえては誇らしげに持って来て、母親は随分閉口したそうだ。

ある日、猫は外出したきり帰って来なかった。心配した家族が探しに行くと、車に轢かれたのか既に冷たくなっていた。そばには小さな鼠の死骸が転がっていた。いつものように俺たちにプレゼントするつもりだったのだろう。悲しくてその日は一日中泣いた。

次の日の朝、俺は縁側から降りて木に水をやろうとした。ふと見るとサンダルの脇にゴキブリが死んでいた。ゴキブリは嫌いなので、サンダルの先で蹴ってどかした。

その次の朝、俺はまた縁側に降りようとした。また何かある。今度はイモリの死骸だった。特に気にせず放っておいた。

更に次の日の朝、今度は鼠の死骸があった。

次の日も次の日も、そこに何かの死骸が置かれていた。母親はいたずらだろうと言って、その日から戸締まりに気を付けていたようだった。

一週間経っても死骸は置かれ続けた。俺は犯人を突き止めようと思った。そこで次の日の朝、日が昇る前に起きて縁側を監視する事にした。

朝4時頃、まだ薄暗い。俺は眠いのを我慢して起きた。そっと縁側を見ると何かが動いていた。

ビンゴ!

俺は跳ね起きた。枕元に置いておいたバットを握り、思いきってガラス戸を開いた。

…何もいない。

足下を見ると、まだぴくぴくと動いている雀がいた。バットの先でそっとつついた瞬間、

「なあ」

鼻が詰まったような鳴き声が聞こえた。誇らしげな、自慢たらたらな鳴き声だった。

俺はその瞬間理解した。

ああ、そうか。お前だったのか。

そのまま庭に出て、木の根元に置かれた大きな石の傍まで歩いた。

「いつもありがとうな。でも、もういいんだよ」

そう呟いて石をなでて、手を合わせた。石は何となくあたたかかった気がした。

それ以来死骸は置かれなくなった。母親は

「やっといたずらが止んだね」

と安堵した様子だった。でも俺はちょっぴり寂しくて、鼻がつんとした。
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