ばーちゃん

おれにとって、ばーちゃんは『優しさ』の権化みたいな人だった。いつもにこにこしてて、言葉を荒げることもなく、本当に穏やかな人で、家族みんなが、ばーちゃんのこと、大好きだった。

ばーちゃんは動物にも優しくて、家の周りにある三毛猫がうろつきはじめると、餌づけして、いつの間にか家のネコになってた。ほどなくして家族にもなついたんだけど、おれや妹が抱き上げて撫でてやっても、機嫌よくはしているんだけど、ノドをゴロゴロと鳴らすことはないくせに、ばーちゃんが視界に入るだけで、その三毛猫はゴロゴロとノドを鳴らしてた。その様子にいつも可愛がってたおれや妹は憤慨したもんだ。なんでばーちゃんがいるだけでゴロゴロいいやがるんだ、こいつは(`Д´)と。

三毛猫が二度目の出産をしてしばらくたった頃、ばーちゃんが入院した。本人には知らせなかったがガンだった。入院からたったの一ヶ月。ホントにあっとゆー間にばーちゃんは逝っちゃった。看病している時、一言も『痛い』と言わなかったばーちゃん。末期で凄まじい痛みがあるハズなのに、顔を見ては『ありがとう』と微笑むばーちゃん。

逝ってしまう1週間くらい前だったかな?珍しくしかめっ面してベッドにいるばーちゃんに『痛いのか?』と聞いたら、小さく頷いた。おれが初めてみたばーちゃんの弱音だった。そんな我慢強い人だった。

死に顔は本当に安らかで、元気だった頃のばーちゃんの穏やかな顔そのもの。遺体を家に連れて帰って、葬儀をすませたその夜、気がつかない間に、三毛猫は生後二ヶ月の仔猫4匹を連れて家出した。それっきり帰ってこなかった。大好きなばーちゃんがいなくなったのを感じ取ったんだろうか。。。

あれから9年。ばーちゃんの事を思い出すのも滅多にないよーになってた。

先日、ばーちゃんに会わせてあげられなかった嫁が死産した。おれの子供が、嫁のお腹の中で死んでしまってた。前日までお腹蹴ったりしていたのに。母体への影響もあるということで、嫁は、普通分娩で2日かかって出産してくれた。9ヶ月の男の子だった。体重2600g、身長49cmまでにもなっていたのに、産声を上げることなく出てきた。

おれも嫁も初めての子だっただけに、どうにも現実とは思えず、放心状態。

息子が出てきてくれた夜、丸二日寝てなかったのに、病院の簡易ベッドということもあり、なかなか寝つけなかった。うとうとし始めた頃に、夢にばーちゃんが出てきてくれた。別に何を言うわけでもない。いつもの笑顔でおれを見つめて、ただ2度頷いてくれた。

目がさめて、まわりを見渡し、夢であったことを自覚すると、嫁にきづかれないように病室を出て駐車場のクルマまで一目散に行った。そして大泣きした。まさに号泣した。

ありがとう、ばーちゃん。きっと息子のことはまかせとけって言いにきてくれたんだよね。忙しさにかまけて墓参りもまともに行ってない不幸者なのに、ちゃんと見守ってくれてたんだな。そう思うと、息子を亡くした悲しさと、ただ自分がつくりあげた妄想かも知れないが、夢にまで出てきてくれたばーちゃんや祖先にたいする感謝が塊となって襲ってきて、大声あげて泣いた。

まだ立ち直ったとは言い切れないけれど、おれは嫁と一緒にがんばっていくよ。心配ばっかかけてごめんな、ばーちゃん。どうかこれからも見守っててください。そして、おれも嫁も知らない世界へ行った息子の魂を守ってやってください。
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