第九十六話

語り部:夜歩き ◆ef6iaC85MQ
ID:L90R7RUA0

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「黒髪」

元同僚(女性)の話。

まだ息子さんが小学生くらいだった時に、お母さん誰か居るよ、と呼ばれて風呂場に行くと、風呂桶の上に長い黒髪が顔を覆った女性が、天井から釣り下がるような格好で浮かんでいたそうだ。

髪が垂れ下がっている上にうつむいているので顔は見えないが、それが一層恐ろしく思ったが、(本当に貞子かと思った、と彼女は言っていた)腰が抜けると言うか、恐怖で身動き一つ取れず、不思議そうな息子さんと二人、しばらくその場に呆然と立ち尽くしていると、女性はその内風呂の湯気が消えるように、見えなくなってしまった。

風呂桶には何の痕跡も無く、そのアパートで何か怖い思いをするのは初めてだったので、彼女はご主人が戻ってくるまでそれは不安でたまらない時間を過していたらしい。

しばらくして帰宅したご主人に不思議な女性を見た話をすると、ご主人はしばらく何か考えた後、話し始めた。

ベテラン救急隊員であるご主人はその日、通報を受けて駆けつけたのだが、時すでに遅くその方は亡くなられていたらしい。

それは、首をつって自死された、長い黒髪の女性だったそうだ。

本来ならすぐに下ろすらしいのだが、ご主人はその日新人の救急隊員と出動していた為、なんと彼女の下がったままの体で新人隊員に、亡くなった方の見分け方?の様な説明をしていたと言う。どうも彼女が風呂場で女性を見た時間、というのがその時間と同じ頃合だったらしいのだ。

女の人だもの、男の人にそんな姿まじまじ見られたら、文句の一つでも言いたくなるわよねえ。多分主人たちが鈍くて気付かないから、私のところに文句言いに来たんじゃないかしら。と、自称怖い話が大の苦手な元同僚は、苦笑交じりで語ってくれた。

【完】
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