第九十一話

語り部:有線 ◆zRMZeyPuLs
ID:6+7dzDRSO

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『黄昏時』

遠藤君が小学生だった頃の話。

友達の家へ遊びに行った帰り。長い直線をゆったりと自転車で行く。

道の両側は田や林檎畑で、周りには人影はない。新幹線の鉄橋を越え、その先のT字路を曲がればすぐに我が家だ。

夕暮れの中、遠藤君はT字路までの数十メートルを急いだ。

T字路の両脇には運送会社の倉庫があり、それに挟まれ、切り取られたように田園風景が見えていた。

後五十メートル程までという時、突然視界が暗転した。正確には、切り取られた風景が。

遠藤君は目を疑った。高さは四メートル位だろうか。丁度、電信柱の辺りまで景色が黒く染まっていた。まるで写真のネガの様に。黒くなった景色の中に何かが蠢いているのが見える。

『近付いちゃ、ダメだ……』

遠藤君がさらによく見ようと、目を凝らしたとき、唐突にそれは消えた。初めから何も無かったように。

思わず自転車を止めていた遠藤君は、家へと向かった。先程より慎重に、尚且つ、急いで。

【完】
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