第八十八話
語り部:オカン系 ◆6mo7Zec8cs
ID:nPNgRExy0
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キになるモノ
武道家の中で、山篭りをする人はさして珍しくない。彼もまた、その一人。心霊スポットでも有名らしい山に篭った時のこと。
夜中に木を相手に、ひたすら打ち込みをしていた時のこと。
ざわり… ざわり… ざわり…
腐りかけの魚のような匂い。むわっと熱を持った風が吹き抜ける。ざわめく。蠢く。
構わず、木に打ち込む。蹴り抜く。
ばさり。
何かが目の前に現れる。蠢(うごめ)く。長い蓬髪(ほうはつ)が。顔にたかる蛆蟲が。そして、空(うつ)ろな眼窩(がんか)。女だったモノ。いや、人間だったかは定かでない。
「ひぃぎゃぁぁぁぁぁああ!」
耳障りな悲鳴。
「うるさいな。」
呟くそこには掻き消える影、木に突き立つ手刀。
後日、山から下りてきた彼は言った。
「俺は、あの時神に感謝したよ。あれがあったからこそ、手刀をモノにできた。」
さて、本当に怖いのは…怖かったのは…
【完】
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