第八十話

語り部:マジパコりてぇ ◆VkjrnMZynA
ID:8iRqUuyy0

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―これは、父の子供の頃からの知人・Aさん一家の、火傷の痕に纏わる実話です。

Aさんは、顔全体に火傷の痕があります。そして、Aさんの長男も顔全体に火傷の痕があります。Aさんには弟が居ました。短気なAさんとは逆に、心根の優しい人だったそうです。

Aさんの母親は近所でも評判の性悪でした。長男であるAさんの事はとても可愛がっていましたが、次男には、母親とは思えない仕打ちを繰り返していたそうです。なのでAさんも虐めていて、弟に火傷を負わせた事があったそうです。

大人になり、家庭を築いた弟さんは、散々虐められたのにも関わらず、母親とAさんの面倒を見ていました。ですが、母親は変わることなく、息子だけで飽きたらず、嫁までもいびりました。

Aさんの弟夫妻が毎日いびられていたある時、事件が起きました。耐えられなくなった嫁は、乳飲み子の一人娘を置いて出ていってしまいました。それまで耐えて来たAさんの弟は、ついに怒りを露わにしました。

怒り狂う弟は、

『そんなに俺が憎いのか』

と言うと家を飛び出し、その日は帰りませんでした。

次の日、離れの小屋で、変わり果てた姿で弟は発見されました。首を吊って自殺していたのです。

遺体を降ろす手伝いのため、近所の人が数人集まりました。みんなで降ろそうとする中、集まった人の一人が天井に、あるものを見つけました。それは殴り書きの様な字の遺書でした。

許すまじ
この恨み末代まで
許すまじ
この恨み長が償え

―どうもおかしい。何かがおかしい。

その遺書らしき文面は、梯子を掛けても首を吊ってる場所からも届かない場所にある。

“怨念で書いたんだ”

ヒソヒソと囁かれる中、弟の遺体は降ろされました。

Aさんの弟が亡くなって数ヶ月後、それは起こりました。

何もしていないのに、囲炉裏の湯鍋が横になっていたAさんの顔めがけ、ひっくり返りました。Aさんは顔に大火傷を負いました。

それからまた数年が経ち、Aさんの長男Mが11歳になったばかりの時に、それは起こりました。

Mが風呂を沸かすため、ボイラーに薪を入れ、紙クズに火を着けた時、突然火窓から火の壁が飛び出し、Mの顔に覆い被さりました。火の壁はMの顔に粘りつき、Mの顔は酷い火傷を負いました。

―Aさんの弟が残した遺書…長が償え…その事を知る人達は、彼の怨念だと囁きました。

程なくして、罪の意識からか、亡くなった息子の残した孫の面倒を見ていた母親は、その子を連れ姿を消しました。

数年後、風の便りでその母親が亡くなった事を知りました。最後を看取った人は居なかったそうです。

Aさんの弟の娘Yちゃん…よく一緒に遊んだあの子はどうなったのか…。

そして現在32歳のMはこの呪いを終わらせるため“生涯一人”を誓ったそうです。

【完】
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