第七十九話

語り部:夜歩き ◆ef6iaC85MQ
ID:L90R7RUA0

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「笑い声」

小学校時代の宿泊訓練の時の話。

自分の小学校でも、恒例の宿泊訓練と言うものがあった。自分達の行った所は海近くの宿泊施設。海近くといっても山を背に建っている施設で、周囲には店どころか民家も全く見えず町は山無効に隠れ、夕方からは本当にその施設の明かりしか見えないような、真っ暗なところだった。

その施設にもよくある怖い話と言うのはあったのだろうが、小学生の自分達には、消灯後に見回りに来る教師の方がずっと現実的で恐ろしかった。騒いでいるのを見つかると、部屋の前で朝まで正座させられる、という話を聞かされていたからだ。

とはいっても、消灯の時間が過ぎてすぐに寝られるはずもなく、部屋の電気はつけたまま、同室の友達と声を潜めて話し込んでいた。だがしばらくすると静かな夜の廊下に、どこかの部屋のメンバーが教師に大声で怒鳴られているのが響き渡り、自分達もこれはやばい、と慌てて部屋の電気を消しそれぞれ布団に潜り込んだ、その直後くらいだった。



きゃはははははははははは、あはははは、きゃーーー、ばたばたばたばたばた‥‥



突然自分達の部屋の前の廊下を、3〜4人くらいの甲高い笑い声と足音が左から右へと駆け抜けていった。

同室の全員が大焦りで飛び起き、こんなところで声を出されたら自分達が濡れ衣を着せられる!と急いでドアを開けた。

だがそこにあるのは、誰も居ない静かな夜の廊下。駆け抜けていったさきの右側は、隣の部屋とその隣、二部屋分しかない。何部屋もある廊下左側を見ても、人っ子一人居ない。

皆で首を傾げながらも右隣の部屋に、うるさくすると先生が来るぞ!と注意しに行くと、隣の部屋はすでに皆が寝てしまっていた。(起こして怒られた)

じゃあ一番端の部屋か、と見に行くと、そこはリネン室‥‥。自分達は顔を見合わせて首をかしげながら、部屋に戻るしかなかった。

聞こえたよな。うん、聞こえた。

そういいながら布団に再び潜り込んだが、そんな声出すような奴が誰も廊下にいなかったのも見たし、何よりあんなに大声だったのに、その後教師が飛んでくるような事もなかった。

結局、変な事はその一回きりだった。

高校生くらいになってその話をしたところ、それは右隣の部屋の奴らが寝たふりしてて騙されただけなんだよ、と笑われたが、それで説明がつくのならその方がいい、と思うくらい自分には唯一の不思議な体験。

【完】
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