第七十七話
語り部:隊長 ◆NEO/XeePcY
ID:42kb46Tg0
【077/100】
「お母さんと一緒」
俺が19の頃に体験した話。
当時免許を取ったばかりだった俺と連れは車で色んなところにドライブに出かけていた。俺の住んでるところはすげー田舎で、結構心霊スポットもある。既に何箇所か探検していた俺達は調子にのってその日の夜、地元でも一番恐れられているスポットに向かった。
そのスポットは小さなトンネル。明かりなどもなく夜は真っ暗になる。昔そこは死刑場だったとか人が首吊り自殺してるだとか後付の噂に溢れる場所だ。
深夜2時前、俺達は到着した。懐中電灯を手に持ち、俺はさあ行くぞと歩き出したのだが、連れが車から降りてこない。
「おい何してんだ」
俺はそう言って車の助手席へ近づくと・・・・・・いない
「あれ?」
きっとからかわれてるに違いないと思い車の中、周りを調べるが・・・・いない
するとトンネルの奥から声が聞こえてくる。
「おーい」
連れの声だ。トンネル中に響いて聞こえてくる。いつの間にトンネルの中に入ったのか・・・おかしい
俺は急に怖くなった。するとまた声が聞こえてきた。
「おい早く来いって。怖いなら別に帰ってもいいんだけどさw」
その一言で俺は腹が立ち、
「お前と一緒にすんな!」
と言いながら駆け足でトンネルに入っていった。
トンネルの中は予想以上に暗く、俺が持っていた懐中電灯じゃせいぜい足元を照らすだけで精一杯だった。中間ぐらいのあたりに人のシルエットが揺らめいている。
俺は急に立ち止まってしまった。だっておかしい。連れは懐中電灯を持っていない。何年もつるんできたが奴はどっちかというと怖がりだ。
俺は恐る恐る懐中電灯の光を奴がいるほう、前方に向けて照らした。
「あぁぁぁぁぁぁぁ」
突然男の呻き声が聞こえたと思ったら懐中電灯の光が消え暗闇が降りた。
「え?やべっおい○○!」
連れの名前を呼んでも返事がない。懐中電灯も機能しない。俺はパニックになりながらもとにかく車に戻ろうともと来た道へ引き返そうとした。
ドン!
体に鈍い衝撃が走った。
壁だ。
俺は壁にぶち当たった。
今来た道が塞がれてる!?
既に半狂乱になっていた俺は泣きそうになりながらも必死に出口を探した。だが見つからない。
ふと足元に寒気を感じた。慌てて足元を見ると青白い手が俺の右足首を掴んでいる。
「わあぁぁぁぁ!!!」
俺は手を振り解くため足を動かそうとするが全く動かない。そして今度はうなじのあたりに寒気が漂ってきた。なぜか自然と涙が溢れてくる。俺は後ろを向いた。
「お母さんは?」
そこにいたのは老婆だった。可愛らしいワンピース(ボロボロになっているが)、おさげ髪をしていて格好はまるで少女のようだ。その少女のような老婆がしゃがれた声で語りかけてくる。
「お母さんは?」
俺は声が出ない。
「お母さんは?」
気がつけば太ももの辺りまで無数の手が絡みついていた。
「お母さんと一緒・・・」
次の瞬間天地が引っくり返ったかのように空間が揺らめき、さっきと同じ
「あぁぁぁぁぁ」
という男の呻き声が聞こえたかと思うと、俺はトンネルの入り口にポツンと立っていた。手には懐中電灯を持ち明かりも付いている。
ふと我に返り俺は急いで車に乗りエンジンをかけた。数キロ走った頃だろうか、携帯がけたたましく鳴った。画面を見ると連れの名前。
「しまった!」
俺は完全に忘れていた。
「ごめん!ちょっと俺混乱してて・・・!今どこだよお前!」
「お母さんは?」
「え?」
体全体を一気に鳥肌が駆け巡った。
「お母さんは?」
それは紛れも無く連れの声だった。
「お母さんと一緒」
足元を見るとあの青白い手がまた俺の右足首を掴んでいた。
人間恐怖を超えると無心状態になるらしい。俺はそのまま身動きとれずガードレールに衝突した。きっとその時の俺の顔は無表情だったと思う。それぐらい無心状態だった。
命に別状はなかったが、俺は右足を切断する羽目になった。青白い手に捕まれたほうの足だ。
連れはその日から行方不明だ。今も見つかっていない。
いったいあの出来事はなんだったのか?今は考える気にもなれない。
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