第七十六話

有線 ◆zRMZeyPuLs
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『宴会にて』

加納朱美さんはその日、友人宅のアパートで、襲撃と称した飲み会を開いていた。

気の合う仲間四人で酒を酌み交わす。

加納さんはお酒に強いほうだが、友人らはまさに酒豪。皆のペースで呑んでいると、すぐに酔いが回ってきた。程よく酔ったところで彼女は、火照った体を冷ます為に外に出た。

ドアを閉め、涼しい夜風に身を晒す。

何処かで水でも漏っているのか、

〈ぴちょん……、ぴちょん……〉

と水音が響いている。

暫らくぼんやりとしていると。不意に強烈な気配を感じた。戸惑いながらも辺りの暗がりを伺ってみるが、誰もいない。

しかし、気配はいまだ感じている。それどころか、段々と強く、はっきりと感じとれるようになってきた。よく探ってみると、その気配は庭からしているようだ。

加納さんは臆す事なく庭に下りた。酒のせいもあったかもしれない。

土を踏み締め、辺りを見回す。が、誰もいない。だが、気配はまだそこにある。

加納さんはそこで、妙な感じがしているのに気付いた。

息苦しい。

此処は屋外、風もそよいでいる。にもかかわらず、息がしづらい。しかも、息苦しさは段々と増していく。何時の間にか、強い閉塞感すら感じていた。例えるなら、満員電車の直中のような。濃密な気配が、彼女を取り囲むように、みっちりと在る。街灯の暗がり、門扉の影。アパートの敷地内、全ての闇から強烈な気配を感じた。

『視られている』

舐め回すような強烈な視線。服がまるで意味をなしていないようだ。ぞくりと、背筋が粟立った。

これは、まずい。

加納さんは、友人の部屋へと転がるように駆け戻った。

「そ、そそ、外っ。外に……っ」

ひどく混乱していて、上手く言葉にならない。思わず、怪訝な顔をした友人の一人を捕まえて外に連れ出す。

爽やかな風が流れていた。あれほど強烈に感じていた気配は、綺麗さっぱり消え去っている。

「あれ……? さっきまで確かに……」

戸惑う加納さんに彼女は冷静に告げた。

「あんまり気にしない方がいいよ? 余計に寄ってきちゃうから、……ね?」

微笑みながらそう言うと、彼女は部屋に戻っていった。 【完】
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