第六十三話

語り部:Sio
ID:lqM74/490

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『夢か現実か……』

飛び入り参加させていただきます。一応自分の話ではありますが、一部記憶がぼやけているので脚色してあります。

中学生に上がった年の冬のことです。僕は勉強やらゲームやらでなかなか眠れず、深夜の二時近くまで起きていました。ストーブの灯油も切れ、入れるのは面倒なのでそのまま寝ようと思い、さっさと布団にもぐりこみました。しかし、いつまで経っても眠れません。典型的な「寝ようと意識すると眠れない」状態に陥ってしまったのです。イライラし始め、目を閉じたり開いたりを繰り返し、ますます頭は覚醒していきます。

そのうち、ふと気がつきました。時計の音が、随分大きく聞こえるのです。カチッ、カチッ、という独特の音が、頭の後方から、かなりの大音量で聞こえてきていました。

そうか耳が鋭くなったんだなーと冷静に思いながらも、意識すればするほど大きくなっていく時計の秒針の音に、次第に恐怖を覚えました。

時刻は午前二時、薄暗い明かり、大きな秒針の音、僕は緊張で汗をびっしょりとかいています。とりあえず時計はどっか遠くに寄せておこうと思い起き上がろうとしたところ、喉から、カエルの潰れたような音が出ました。身体が動かないのです。金縛りというやつです。どんなに動かそうとしても、ぴったりと、くくりつけられたかのように完全にベッドに固定されてしまい、指一本動きません。

僕は、これが金縛りにあった最初で最後の体験で、あまりの恐怖に軽く失禁しているのを感じました。心臓の音と、時計の秒針の音が交互に聞こえてきて、その大きな音がいちいち僕をビクつかせます。

そうしてしばらく何も出来ずにいると、ふと何かの視線を感じました。明らかに、僕か、僕のいる方向を意識しているような嫌な感じがしたんです。その視線というか不思議な感じは、僕の左斜め前、部屋の入り口からでした。ぴったりと閉めたと思っていた襖が、わずかに開いていたんです。

僕の首筋から冷や汗が流れるのを感じました。身体は動かせないのに、目だけは動くので、かろうじて斜め前の部屋の入り口が見えているんです。

僕の視線は釘付けになりました。まるで何かに支配されているかのように、そこから意識が離れない。怖い怖い怖いと思っているのに、目はしっかりとその隙間の闇を見つめている。泣きそうになりながら、それでも視線は動かせません。

嫌な感じ、その隙間が開き誰かが中に入ってきそうな、そんな不気味なものを感じていたせいでしょうか、僕は意識が遠のいていくのに気がつきませんでした。

気がつくと、朝。冷や汗をびっしょりとかいた僕は、無事に朝を迎えられたことの嬉しさで飛び上がり、鼻歌を歌いながら勢いよく襖を開けて部屋の外にでた瞬間、身体が凍りつきました。

僕の部屋の襖に、赤黒い手の跡のようなものが無数についていたんです。まるで、必死に僕の部屋の襖を開けようとしていたかのように。

気がつくと、僕はベッドの上で荒い息をしていました。時計を確認すると午前七時、朝です。

僕は飛び起きて、すぐさま部屋の外に出て襖を確認しました。何もついてませんでした。染みも、手の跡も。そう、僕は夢を見ていたんです。

けれど今でも釈然としない思いを抱えています。どこまでが夢で、どこまでが現実なのか。あまりにリアルだったんです。あの朝の感覚、いわゆる「偽りの目覚め」だとはとても思えないほど・・

そして、襖についていた無数の手の跡。いまでもはっきりと目に焼きついて離れません。

【完】
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