第六十二話

語り部:恵和以往 ◆9G12fmecqU
ID:GNmBuuYy0

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今から20年以上前の話。

当時私は、一つの部屋を弟と半分ずつ使っていました。寝るときにはアコーディオンカーテンで仕切っていたし、そもそも男同士の兄弟ですからべつに何を気にするということもありませんでした。

普段通りに眠りについたある日、私はふと目を覚ましました。

ここまでは誰にでもよくあることだと思います。

しかし目を覚ました私は、いきなり目にした光景とともに金縛りにあいました。私の布団を取り囲むように、数人の男が立っているのです。しかも彼らは皆一様にスーツ姿。といっても上着もズボンもぼろぼろで、まるで戦争に行ってきたみたい。 スーツなのに袖や裾が破れて半袖半ズボンのような状態でした。さらにキョンシーのように、無表情で両腕を前(=私の方)に差し出している・・。

恐怖よりも驚きの気持ちが先行していた私は、なぜかただ冷静に、彼らがそんなにぼろぼろになるまで苦労を重ねたことが怨みとなっているのだと感じました。彼らの怨みの矛先が私自身でないと思ったためか、恐怖心はなかったものの尋常でないことはわかったので、早く消えてくれないかとずっと心で思っていました。

彼らは、ややうつむき加減で私の顔を見ていましたが、その間ずっと何かを呟いていました。金縛りのせいかどうかはわかりませんが、その内容はまったく聞き取れませんでした。呟いていたというのは、唇の動きからの推測です。

しばらくそんな状態が続いた後、彼らは私を見つめるのをやめ、一世に真下を向きました。

え?と、状況を理解できずにいる私に対して彼らは一斉に顔を上げ、何か叫びました!

なんと叫んだのかはわかりません。しかし、その時の私の恐怖心もまた、誰にも伝えられません。

私もまた同時に悲鳴を上げ、気付くと翌日の朝でした。

弟に話しても、全然気付かなかったよと。普段は私の些細な寝言ですら目を覚ます、神経質な弟なのですが・・・。

【完】
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