第四十六話

語り部:パチ ◆yeowI6sCZU
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学生時代の先輩に聞いた話。文化祭の日が迫っていたある夏の終わりの話です。

先輩達のクラスは文化祭の出し物として、地元の史跡を巡りその様子をビデオで撮影してレポートとして発表することにした。

男女何人かでグループを作り各地の史跡を回り撮影してくることになったのだが、先輩達はある海の近くの史跡を撮影することに決めた。その史跡は切り立った崖の上にあり眺めが良いのだが、地元では有名な自殺の名所でもあった。

先輩達もそのことは当然知ってて、その時は面白半分でその場所を選んでしまったらしい。

いざ現地に到着して撮影をしていると、最初のうちは順調に進んでいたが、一人の女性の先輩が具合が悪くなった。その先輩は感受性が強い(霊感がある?)ということで今回のためにわざわざ呼んでいたらしい(以下、女性の先輩→Y先輩)そして、しばらく蹲っていたY先輩は急に立ち上がり、大声で笑い声を上げ出した。その時の笑い声はY先輩の普段の声とは全く違っていて、笑いながら岸壁の方へと歩き出した。

一緒にいた先輩達は、豹変したY先輩の態度に何が起こったか理解できなかったが、Y先輩がこういう場でふざけるような性格ではないため、さすがに焦りだした。何度もY先輩の名前を呼んでも、Y先輩は無視して岸壁の方へと歩き続ける。

このままじゃ、Y先輩が海に落ちる!そう考えた先輩達は男の先輩数人でY先輩を取り押さえると、Y先輩はそれでも大声で笑いながら抵抗し海へと進もうとした。

いっこうにY先輩の様子が元に戻らないので、自殺の名所に行くのだから…と一応用意していた塩を仲間がY先輩に向けて、おもいっきり投げつけた。

すると、Y先輩はぶっ倒れ気絶したそうだ。先輩達は恐ろしくなり、Y先輩の意識が戻るのを待って全員ですぐその海を離れた。

自分の地元の学校では、田舎なのでみんな原チャリに乗って移動するんだけど、その海からの帰りもみんなで連なって原チャリで帰っていた。

その時、一人の先輩が急にスピードを上げた。皆は不審に思いながらもその先輩にスピードを合わせ追走していった。その時は何故かはわからなかったが

「急げ!急げ!」

しきりに急かされたという。後になって何故急にスピードを上げたのか尋ねると、バックミラーを見ると白い着物を着た老人(女?)が走って追いかけてくるのが見えたらしい。

なんとか家に帰り着いて、しばらくして気持ちも落ち着いた頃に撮影したビデオを再生してみると、豹変するY先輩の様子がしっかり写っていた。

先輩達は面白半分にそういう場所へ行ったことを悔やみ、また祟りみたいなものが怖かったので地元の神主さんに相談に行った。今回の出来事を説明し、そのビデオを神主さんに見せた。なんとか御祓いをしてくれと頼んだが、神主さん曰く

「これは私がどうこうできるレベルではない。あの海の神様を怒らせている」

みたいなことを言われたらしい。それでも、自分達でもう一度あの場所へ戻って誠心誠意謝ってこいと言われた。結局、先輩達は撮影に行ったメンバー全員であの海へもう一度行き、お供え物をして謝罪してきた。

その後は、特に問題もなくあのビデオはいつの間にか再生できなくなったらしい。文化祭の方はというと、当然、先輩達のグループのレポートだけ発表されなかった。

【完】
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