第四十五話

語り部:唄 ◆U6P4/kTIt.
ID:NqpATB5T0

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『お寺』

友人の父親が小学生の頃の話だそうです。仮に彼、としましょう。余談ですが、その彼は、このての話が大好きで、今も自慢げに語っているそうです。

夏の夜の九時ごろでしょうか。その日、月は出ていませんでした。彼は友達二人と、三人で、近所のお寺に行きました。そのうちの一人は懐中電灯を持っています。

肝だめしに、とかそういったわけでもなく、そのお寺の前の道をよく暴走族が通るので、折角だからそれを見に行こう、という話になったからです。しかし、あいにく、その夜に暴走族は通らず、彼らはがっかりしていました。

暫らくお寺の前でぼんやりしていましたが、一人が

「帰ろう」

と言うのに二人は同意して帰ることになりました。

三人が歩き始めたとき、彼が何かに引っかかり、転んでしまいます。二人の友達が駆け寄り、持っていた懐中電灯で照らしてみると、それは石などではなく、木の根っこでした。しかし、それは土に盛り上がったというものではなく、彼の足に巻きついていたのです。

三人はぎょっとしましたが、もう遅い。その根っこは彼だけではなく、二人の友達にも巻きついていきます。持っていた懐中電灯も落としてしまい、辺りは真っ暗になりました。

その暗闇の中、彼らは必死になってその根っこを引きちぎり、懐中電灯を落としたまま全力疾走で家に逃げ帰りました。

翌日、彼ら三人はお寺に少し怖がりながらも行ってみました。そこには、昨日引きちぎったはずの根っこの破片たちはなく、ただ、電池の飛び出した懐中電灯がひとつ、ぽつねんと転がっているだけでした。

【完】
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