第四十四話

語り部:辰砂 ◆DQdWMurCSc
ID:pPvte4TWO

【044/100】

さきほど自転車通学をしているとお話しましたが、ちょっとそれに関連したお話。

うちには車庫なんてものはないので、店――両親が自営業を営んでおります――が終業したあと、店の中に自転車を仕舞っています。

そのついでといいますか、気が向くと仕舞う前にちょっと自転車に乗って、そのあたりをぐるぐる回ってきたりなど、ときどきはしているのです。

時間はだいたい9時〜11時というあたりで、もうそのころにはひとはあんまりいませんが、ときたま歩行者がいることがあります。歩行者だけじゃない、ランニングなんぞをしている人ともすれ違うことは多く、そのたびにあちらさんは健康的でいいなぁ――とか思ったりも。どっちかというと暴走族か不審者かという感じですからね、自転車だと。

だからその日(というか今日なんですが)、その走ってる人とすれ違ったときも、べつだん不思議には思わなかったのです。

「ああ、あんな黒ずくめで危ないなぁ。夜中だってのに」

などと思ったぐらいで。

おかしいと思ったのはもう少ししてから。何度も何度もすれ違うんです、その人と。

それだけなら別に不思議でもない、同じコースなんだろうという話なんですが、問題は場所でした。毎回、毎回同じ場所ですれ違うのです。

少し前まで潰れた結婚式場が建っていて、それが最近取り壊された跡地なんですが。気味が悪くなって、ちょっとスピードを上げてみたり、逆にすこしゆっくり走ってみても同じでした。

ちょうど、廃墟然とした砂利原にさしかかったあたりで黒い人影が見えてきます。同じように。もちろん同じように、何事もなくそのまますれ違うだけなんですけれども。

【完】
⇔戻る