第三十八話

語り部:金魚 ◆N23CfC33RE
ID:wFYINnwoO

【038/100】
『常連さん』

以前働いていたカラオケ店には、人間の常連さんの他に、おそらく霊だと思われる常連さんも数人いました。かなり頻繁に現れるので、店で働くほとんどの人が遭遇していました。

小さな女の子や近所の高校の制服を来た男の子(顔だけが見えない)等がいたようですが、最もよく現れたのが若い男性で、ほぼ毎日空いているボックスを転々としていたようです。無人のボックスで勝手に曲がかかったり、本やマイクの位置が変わっていたりが頻繁にありました。

ボックスの片付けで両手が塞がっているとドアを開けてくれたり、

「お疲れ様…」

と囁いたりと悪い霊ではなさそうでしたが、満室の時は生きているお客さんと同室になるので

「入れたのと違う曲がはいる」、「マイクに雑音が」、「空気が悪い」

等の苦情がよくありました。

そのせいではありませんが、そのカラオケ店は経営状態が悪くなり閉店する事になりました。

閉店して数ヶ月後、たまたま店の近所に住んでる元バイト仲間に会った時にその人が言ってました。

「あの店の入り口の中の方でションボリしてる人影、よく見るんだ。シルエットだけ浮き上がって見えるから多分人間じゃないよね。なんとなく、あの幽霊の人かなって思ってるんだ」

歌えなくなった元カラオケ店に、彼はずっと通ってくれていた(住んでるのかな)ようです。

【完】
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