第三十七話

語り部:蝉 ◆8sSemi/UG.
ID:EXrW4xM00

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私が大学三回(三年)の時の話です。

民俗学の講義をとっていた私はレポートの題材として地元の山ノ神を扱うことにしました。

山ノ神の儀礼は各地で作法が異なりますが、私の地域では子供が12月と2月に大人は1月に、それぞれが登山をして地元の山の神様にお祝いの捧げものをする、といったことを行っていました。

私は文献の渉猟を行うとともに、地域の古老への聞き取り調査、現地調査を、まあ真似事のようにではありますが徐々に進めていきました。その現地調査として一人で登山をして山の神の社を撮影しようと思い、地元に里帰りしたときに早速登山して社へと向かいました。

祠へと続く山道をところどころデジカメで写真を撮りながら登り、いよいよ社に着きました。社といってもごく小さいもので、大きさは一般家庭の神棚より大きく自蔵堂よりは小さいぐらいものです。

外観をパシャパシャと撮影し、雪に覆われた風景をファインダーに収めていたとき、ふと魔が差したのでしょうか。社を開いて中を撮影しようと思ってしまったのです。

特に罪悪感も感じずに扉を開いて中を撮影しました。御神体を撮影してしまいました。

それを家に帰ってから、父母と話している時にぽろっと話してしまったのです。信心深い田舎のこと、猛烈に私は怒られ、翌日には山の入り口で社の中の御神体が写ったデータを削除させられました。

しかし私は楽観していました。復元ツールを使えばそんなものはいくらでも拾いなおせる、と。地元から大学の下宿先に戻ってから復元ツールでSDメモリを走査しました。処分した去年の旅行の時のの写真や、ちょっと前の飲み会の席での写真が復元されています…しかし、御神体を撮影したデータだけは影も形もないのです。写真写りの問題で削除した前後の登山道の写真はあるにも関わらず、です。

背中をうすら寒いものが一息に駆け上がるあの感覚は、今でも忘れられません。禁忌と言うものは今でも変わらず存在し続けているのです。
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