第十三話

語り部:ぽんかん ◆fZaV8pnJmI
ID:MxZ/QCi60

【013/100】
『A君の話』

これは、自分の旦那から聞いた話。

その日、旦那は かなり仕事がたまっていて、深夜まで残業していた。その時に同じフロアに居たのは、同僚のA君のみ。二人で雑談なんかしながら仕事をしていたんだけれど、フッ・・と話題が途切れて、何となくそのまま二人とも無言で仕事をしていた。

しばらくしてA君が突然ポツリ、とこう切り出した。

「人間が一番怖いよね」

何かと思ってその続きを待っていると、A君は自分の学生時代の体験を話し出した。

ちょうど15年前(のことだとA君は言う)、大学生だったA君は街中で一人の女の子をナンパした。自分のアパートの部屋に女の子を泊まらせたんだけれど、あくる日バイトだったA君は(朝早かったこともあり、女の子がまだ眠そうだったので)女の子に部屋の鍵を渡して、

「ポストに鍵を入れて勝手に帰っていい」

というようなことを言って部屋を出た。その時は

「別に盗られるような物も無いし・・」

とノンキに考えていたそうだ。

で、バイトが終わり、友人たちと夕食を食べてアパートに帰って来たのはもう夜の11時を過ぎた頃だった。ポストをのぞくと、有るであろうはずの鍵が無い。まさか、と思いながら玄関のノブを回すと、すんなりドアが開いた。

中を見渡すと、電気も付けず真っ暗な部屋の中、何も映っていないテレビの前にペタンと座った女の子の姿が、玄関外の廊下からの明かりと窓の外からの明かりで見えた。

女の子はテレビの画面の方を向いたまま、ただぼんやりとしていたそうだ。気味悪くなったA君は、すぐに出て行かせようとしたんだけれど、女の子が泣きじゃくり、あと一日だけ泊めてほしい、明日になれば必ず帰るからと懇願してきた。

A君は何故かそれ以上強く言えず、結局その日も泊めてしまった。

次の日、大学から帰ったA君が見たのは昨日と同じ光景。さすがにA君も気味悪さ半分、怒り半分で、力ずくで部屋から追い出そうとしたら、女の子はどこからか持ち出した包丁を手に暴れだした ―――――――――

と、そこまで話したA君は仕事が終わったようで、突然話をやめてサッサと帰り支度を始め、

「それじゃ」

と帰ってしまった。

旦那はアッケにとられつつも、その話が結局どうなったのかが気になったのだけれど、A君の様子が少し変だったこともあり(途中で旦那が納得行かない箇所で質問をはさんでも、

「ああ・・」

とか

「うん・・まぁ・・」

とか、何だか要領の得ないような受け答えだったし)、それに気味悪くもあり、聞きそびれてしまった。それから間もなくしてA君は会社を辞めてしまった。

あれからもう5年も経つのに、旦那はこの季節になると決まってあの日の事を思い出すらしい。 けれど・・・今でも不可解なのは、 同僚として何年も色々な話をしてきたのに、なんで突然脈絡も無く、しかもあんな中途半端な話をし始めたのか、ということと、その話をしている時のA君は旦那に話しているという感じでは無く、まるで独り言をつぶやいているような感じだったこと。

そして

「15年前 大学生」

というのは、その話をした当時28歳だったA君では、年数がどうしても合わないこと、だそうだ。
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