第十二話

語り部::雲 ◆p3TR/BAfFw
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中学三年の時の話です。数日前に祖父が亡くなり、祖母も納骨しているお寺でお通夜がありました。二階に納骨堂があるこのお寺は親族の遺骨も多く治められており、年に数回は訪れる、家族にとっては馴染みのお寺でした。

お通夜は、数人が祭壇のある大部屋で、不謹慎ではありますが、お酒を飲んだり騒いだりして盛り上がりながら線香守りをする、という形でした。騒ぐのは祖母の時も同様で、死んだ人と最後に一緒に馬鹿騒ぎするって事らしいです。

祭壇のある大部屋を出ると真っ直ぐに廊下があり、手前から右手に玄関、本道への渡り廊下、左手には厨房、階段、待機室と並んでます。突き当たりは大部屋で、ここが親族の寝部屋でした。

深夜、俺は馬鹿騒ぎな親族の横でゲームをしつつ、線香守りをしていました。葬式からお通夜の少しの間に寝ていたので、俺にはあまり眠気がなく、新しいゲームをしようと寝部屋にある荷物を取りに戻ろう、廊下に出ました。

俺と同じように寝られない人は待機室に集まり、雑談をしたり本を読んだりする事が多く、なので、廊下に出てすぐに誰かが待機室に入るのを見て、俺は何気なく小走りで駆け寄りました。話し辛い大人ばかりだったので、話し相手が欲しかったのかもしれません。

待機室の前につき扉を開けると、そこには父親と親戚が一人、雑談をしていました。普通は一人で待機室にいる人は少なく、一人になると大抵は大部屋に来ます。どことなく嫌な予感がしたので、俺は質問しました。

「今、誰か入ってきた?」

案の定、答えは

「いや、ずっと二人だよ?」

というものでした。

霊媒体質だと死んだ祖母から言われ続け、軽い霊体験も少なからずあった俺は、まあ、状況的にその程度なら有り得るか。と納得する事にしました。

なんだか気分が削がれ、俺はそのまま寝部屋に入って寝る事にしました。その際、待機室を出て不意に大部屋の方を見て、俺はゾッとしました。一瞬ですが、人の頭のようなものが厨房からこちらを見ていた気がしたからです。寝部屋に慌てて戻りましたが、その夜、俺はあまり眠る事ができませんでした。

そしてお通夜が終わり、次の日。朝から肩が重く、嫌な感じがしてました。父親にそれを言うと、

「仏壇に手を合わせな」

と軽く言われて終わりでした。言われた通りにしても肩の重さは変わらず、うちの母系は霊感がある人が多いので、母親に相談しようとしましたが、色々と後片付けが立て込んでいて相談どころの状況じゃありません。結局、その日はそのままで一日を過ごしました。

そしてその日の夜、前日の寝不足が祟り、俺はいつもより簡単に睡眠へと落ちてました。けれど不意に、深夜に目が覚めました。あれ、と思う暇もなく、閉ざした視界の上のほう――頭の上で声がしてます。ボソボソと喋るそれは聞き取れず、ただ、何故か目を開けてみようと思いました。

……普段そんな事があれば、絶対に目を開けたりしないのに。

真っ白な手が、視界の上からお線香を差し出してました。

叫びを上げようにも声が出ず、目を閉じようにも閉ざせませんでした。そんな俺の耳元で、それが呟きます。ハッキリと、聞こえる声で。

「センコウオクレ」

意識を失っていたのか、それとも夢だったのか。気がつけば、朝になってました。慌ててその日のうちに母親に相談したところ、恐らくはお寺の二階のお堂に集まっていた何かが、線香上げて供養して欲しくて付いて来てしまったのだろうとの事でした。ただ手を合わせるんじゃなくて、もう一度その人のために手を合わせてみればと言われ、それを実行してからは肩も楽になり、何も起こってません。

俺の体験談は以上です。 ―完―
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