第六話

語り部:徳島ヴォルティス@@サポ ◆K6QUBu7wQQ
ID:8mQHytvn0

【006/100】

あれは、私がまだ小学校低学年の頃だったかと思います。当時築50年ほどの古い家に住んでいたのですが、その家に『着替え部屋』がありました。

その家は風呂・トイレが内部に無く、これまた古いコンクリート造りの別棟となっておりまして、そちらの建物に脱衣所として使えるスペースが無かったため、風呂に入るものは皆、その『着替え部屋』で着替えをしていた訳です。

その日、私は居間でテレビを見ておりました。コタツなどに入っていた記憶は無いため、少なくとも冬ではなかったと思います。

――――――ぎしり、ぎしり、ぎしり。

……唐突に、『着替え部屋』から、音が聞こえてきました。ゆっくりとしたペースで、定期的な音。

初めは動物を疑いました。家が古く、隙間も多かったのでしょう、その家にはイタチやら猫やら、時には蛇なども入り込む事がありましたので。

しかしながら、家に入ってきたイタチや猫はそんなにゆっくりとした音など立てた事がありませんし、蛇が這った時に音など立つものでしょうか。何より、その音の重さは……そう、人がゆっくりと古い畳の間を歩いた時に聞こえてくるような、板の軋む音なのです。

そっと『着替え部屋』を覗き込んでみます。

……同時に音がぴたりと止みました。『着替え部屋』の中にはタンスや、諸々の衣類があるばかり。動物も、人も居はしません。

何だったんだろうと思いながら覗くのをやめ、再びテレビを見始めると、また、

――――――ぎしり、ぎしり、ぎしり。

音が聞こえ始めます。

結局、私は数ヶ月間その音……そのうち、足音と確信しましたが……と付き合いました。聞こえてくるのはいつも夜、唐突に来ます。そして、覗き込むと止まる。覗き込んだら何か居た、という事は全く無く、足音以外の音が聞こえてきたこともありません。また、足音は近づいてくるでも、離れていくでもなく、同じ大きさの音が延々と聞こえてきます。

両親や祖母、妹には聞こえないのか、それともどうでも良いのか取り合ってもらえず、一人不思議な思いをしておりましたが(怖い思い、ではなく。当時私は結構な怖がりだったのですが、何故かその足音には恐怖感を感じておらず、『着替え部屋』も特に抵抗無く使い続けました)数ヶ月の後、いつの間にか、気付いたらその音は聞こえなくなっておりました。

家は私が中学生の時に取り壊し、今は新しい家が建っておりますので、あの音の正体が何だったのか、真相は闇の中ですが……『着替え部屋』は、私が乳幼児の頃に亡くなった曾祖母が、生前自分の部屋として使っていたのだそうで。案外、出来の悪いひ孫の様子を見に来ていたのかもしれませんね。

【完】
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