第四話

語り部:Gペンマン ◆UoNspEbUF6
ID:QRmWHAJT0

【004/100】
-死んでいない父-

去年の夏に私の知人のTさんが体験した話

Tさんは田舎の父が亡くなったと半ば半狂乱の母から連絡があったので、葬式関係の話をするため田舎にむかっていた。Tさんの父は母と二人暮しで農業を営むレトロな専業農家で母と凄く仲が良かったらしい。

”仲の良い父さんと母さんの事だ、電話口でもかなり鬼気迫った口調だったしきっと残された母さんはショック大きいだろうな・・・”

などと思いながら完全に日が沈んだ頃とうとう両親の・・・、いや今は母親だけの物となった古い家についた。

顔を合わせたときどういう反応をすればいいか悩みながらインターフォンを押す。

ピンポーン

当時の心境とは対照的な明るい電子音が流れて数秒待つも反応がない。Tさんは母は買い物にでも行っているのだろうと思い、持ってきた合鍵で家のカギを開け中で待つことにした。

静まり返った家の中に入り父の部屋を覗くと、電話での母の言い分通りもう動かなくなっている父の姿があった。

「あんなに死にそうにも無い元気な父さんがあっけないもんだな・・・」

などと呟きながら一縷の望みを持って脈を測ってみるもやはり脈はなく、呼吸もしていない。

「・・・やっぱりだめか」

重い気分になりつつも母の帰りを待つために居間に移動してすぐ母が帰ってきた。

「あれ、靴がある。 Tもうかえって来てるの?」
「うん、電話があってからすぐに出発したし」

玄関で声を上げている母を返事をしながら迎えに行く。やはり買い物帰りのようでスーパーの袋を両手に抱えた母は顔に疲れは見えるが、電話口での声ほど切羽詰まってないようなので安心し

「ありゃ、Tも立派になったわねぇ」
「ははっ、一時期どうなるかと思ったけどなんとかなってるよ」

等と世間話をしつつ、母の後に続く形で台所へと到着する。

「んじゃ、これから料理作るけどTも食べていくでしょ?」
「うん食べるよ、んでもその前に・・・さ」

いつまでも世間話をしてるわけにはいかないと本題をぶつける。

「父さんはだいたい何時ごろ亡くなったの?」
「・・・そのことなんだけどね?」
「うん?」

てっきりこの話題をぶつけた途端にまた半狂乱な状態にもどってしまうかと思いきや、心底恥ずかしそうな顔で。

「・・・ごめんねお父さんが倒れたから取り乱しちゃって」
「・・・お父さん生きてるのよ、ほらもう9時近いでしょ?もうきっと居間で夕飯を待っているはずよ」

と普通に、なんの不自然さも感じられないような声で母は言い放ったのを聞き体が硬直し混乱や疑問なんかよりまず言い様の無い強烈な寒気がTを襲った。

そう、父親が死んでいるのはつい数分前確かめた自分が良く知っている。なのに母に言わせると父は”生きていて”尚且つ”居間で夕飯を待っているだろう”という。

入ってきた情報に頭がついていかないまま、どれくらい突っ立っていたのか分からないがとにかく母親が夕飯を作り終えすべての料理をお盆に乗せた後。

「いつまで突っ立ってるのよ?ほら居間に行って一緒にご飯食べよう?」

と声をかけられ母と一緒に居間へと向かい。・・・居間の扉をあけると



居間の扉から見てちょうど目が合う位置にもう動く事はないはずの父が”あった”



「うわぁぁぁぁぁ!!」



思わず叫び声をあげ、Tはその場から逃げ出したという。

後日親戚一同も駆り出して母を納得させちゃんと葬式は行ったのだがTさんの父親の葬儀では最初から最後まで不思議なことが立て続けに起こったという。

この話をしてくれたTさんは

「今を思うと父さんにはよっぽど未練な事があったのかなぁ」

と振り返っていましたが、もしかしたら、死んだ後なにか悪いものに取り付かれてたのかもしれませんね・・・

【完】
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