第二話

語り部:金魚 ◆N23CfC33RE
ID:wFYINnwoO

【002/100】
『布団』

数年前、入院中に知り合ったEさんの話です。

Eさんは五十代後半の男性で、職場で急に倒れて病気に運ばれてきたそうです。そのEさんには同年代のMさんという親友がいたらしいのですが、Eさんが入院中する数ヶ月前に急死されたとの事(死因までは聞いていません)。

EさんとMさんは共に独身で一人暮らし、家も近所だった為頻繁にお互いの家を行き来していたそうです。Mさんが亡くなった日もEさんはMさんの家を訪ねました。

しかし約束をしていたのに呼び鈴を鳴らしても Mさんが出て来なかったので、窓から覗くと布団から半分はみ出た状態で倒れているMさんを発見、急いで救急車を呼びましたが手遅れだったそうです。

Mさんが亡くなった後、部屋を片付けに来たMさんの兄弟から、

「大した物はないけれど、もし良ければ遺品を貰ってやって欲しい」

と言われ、EさんはMさんの家に行きました。そしてEさんは、いくつかの遺品の中からMさんが亡くなった時に着ていた布団を頂いたのだそうです。

「気持ち悪くないんですか?」

と兄弟の方に尋ねられたそうですが、Eさんは何故かその布団を自分が引き取らなくてはならないような気がしたのだそうです。

布団を貰ってから、Eさんはそれまで使っていた自分の布団を捨て、Mさんの布団で寝るようになりました。正直、私はそれを聞いて少し不気味に感じました。

Mさんの布団で寝るようになって以来、ほぼ毎日夢にMさんが出てくるようになったそうです。しかしEさんは、Mさんはきっとまだ死にたくなかったのだろう、色々と未練もあるだろう。そんな愚痴を自分に話したいんだろうと思い、あまり気にはしていませんでした。

けれど、その布団を使うようになってからEさんはよく体調を崩すようになりました。体重も激減したようで、

「癌じゃなきゃいいんだけどなあ」

と言っていました。

Eさんの体は次第に衰えていき、入院する少し前にはかろうじて仕事には行っていたものの、仕事中に具合が悪くなって早退する事も多くなっていたそうです。

Eさんの体調は良くならなかったけれど、検査をしても特に異常は見つからず、結局十日程で退院する事になった。

退院前日、余計な事かと思いつつもEさんに聞いてみました。

「布団、捨てないんですか?」
「何で?」
「いや、何て言うか…その布団を使い始めてから体調崩したって思うなら、布団を供養とか処分とか、してみたらって」
「友達の形見だしなあ。布団が悪いって証拠はないしな。まさかあいつが祟ったりするわけないし」

Eさんには布団を処分するという考えは全くないようでした。

「それになあ、あの布団は俺が使わなきゃいけないんだよ。ずっとな」

どうしてEさんがそこまで布団に執着するのかはわかりませんでしたが、多分Eさんは退院後もMさんの布団を使い続けてると思います。

元気でいてくれたらいいなと思うのですが…。

―完―
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