第五十四話

語り部:掛布 ◆rMtfQB3ISQ
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今から二十年ほど前の話です。当時、僕は小学五年生だった。

隣のクラスにはいわゆる「知的障害者」の「*川」君という子が在籍していた。親御さんが「健常な子供と一緒にどうしても教育を受けさせたい」と無理を言って「特殊学級」入学を拒否したため、学校側は仕方なく「通常クラス」に編入させていた。

この子はあまり目立った問題行動は起こさなかったのだが、ただひとつだけ問題があった。

何故か「丸八真綿」のCMのまねが大好きで、突発的にところかまわず始めてしまうのであった。

「ま〜るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち〜ん。まるはち〜ん。」

と歌いながらクネクネと踊りだしてしまうのだ。当時、このCMは高見山関(現 東関親方)が出演している事で有名だった。

クラスの連中は「いつもの事」と相手にしておらず、隣のクラスにいた私は「異常な雰囲気」をいつも感じ取っていた。

秋になって学芸会の季節となった。今までは「*川」君は蚊帳の外だったのであるが、親御さんが

「息子も学芸会に参加させて欲しい」

と校長に直談判し、学校側はしぶしぶ「*川」君の参加を認める事となった。

・・・・さて、頭の痛いのは担任教師である。

「どんな役をやらせたらよいものだろうか・・・?」

この時、当時のクラスの三悪である「*田」、「*合」、「*西」らはわるだくみを考えていた。

「あいつのおかげでクラス中迷惑してるしなぁ・・・・いっちょ、*川のクソババァに恥かかせてやろうか?」

と「*田」。

「おもしろい。やろうぜ。で、どうするんだ?」

と残りの二人。

「こんなの。どうだ?」

・・・・出し物は浦島太郎。「*川」君は乙姫様の「巫女」役で、舞台の上であの「まるはっちん」踊りを躍らせて、親御さんに恥をかかせようとするものであった。

更に「こんな奴がいて、クラス中迷惑している」事を他の親御さんにアピールする事も実行する事となった。もちろん、担任教師の知らぬ所でこの計画は秘密裏に進められた。クラスの誰も、この計画に反対する者はいなかった。

隣のクラスの友達(四年生の頃、同じクラスだった)が、

「今度の学芸会では面白い事が起こるぜ」

とニヤニヤしながら私に言った事はいまだに記憶に残っている。

が・・・・この企みが後に世にもおぞましく、後味の悪い事件の起こる原因になろうという事はこの三人にも予想がつかなかった。

学芸会 当日。

体育館で、各クラスが演劇などを発表してゆく・・・・演目「浦島太郎」は順調に進み、ついに「巫女」の登場となった。「鯛」役の「*合」が「*川」君に言った。

「さぁ。巫女よ。客人に踊りを差し上げなさい。」

と言い放つと、舞台上の全員が、

「踊りを。さぁ!踊りを!」

と叫ぶ・・・・

「平目」役の「*西」が「*川」君に耳打ちした。

「*川、まるはっちん、まるはっちん、まるはっちん、まるはっちん、まるはっちん・・・・」

それに刺激され、ついに「*川」君は「まるはっちん」踊りを始めた。

「ま〜るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち〜ん。まるはち〜ん。」
「ま〜るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち〜ん。まるはち〜ん。」
「ま〜るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち〜ん。まるはち〜ん。」
「ま〜るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち〜ん。まるはち〜ん。」

狂った様に「*川」君は踊り続けた・・・・・・いつまでも、いつまでも・・・・

ざわめく観客・・・・絶句する「*川」君のお母さん・・・・・そして、「計画通り」に「*田」がキレた。

「ふざけんじゃねぇぞ!!何がおもしれえんだ!!バカヤロウ!!!」

とうそ泣きしながら、衣装を破り捨て、体育館から走り去っていった。

狂った様に踊り続ける「*川」君を「*合」と「*西」は押さえつけ、舞台のそでへ消えてゆく・・・・・

当然、学芸会は「これにておじゃん」となった・・・

「*川」君のお母さんはただ呆然としていた。が、周囲の者達の「反感の目」が自分に集中していた事に気づき、逃げる様に体育館から去っていった。

担任教師は激怒し、誰がこんな事を計画したのか、クラス全員に問い詰めた・・・・「*田」を除いては。が、誰もこの計画が「*田」らによって計画された事を決して語らなかった。

一方、「*川」君の両親はすごい剣幕で学校側に抗議した。

「何故、息子にこんなまねをさせたんですかっ!!!!お前らそれでも、教育者か!!!」

この言葉に校長がついにキレた。

「あんた方が無理言って、通常学級に編入させていたから、こうなったんじゃないんですか???」
「何もこちらはこれ以上無理をして、*川君を受け入れるつもりはない。これ以上、文句・騒ぎを起こすなら、特集養護学校へ転入してもらうしかない!!!」
「正直、これ以上は迷惑だ!!!!」

と凄まじく一喝。

実際、これだけの事を校長が言えたのは、「これまでの実績」と「今回の一件で反感をもったPTA関係者のバックアップ」があったためと後に判った。・・・・・つまり、皆、「厄介者払い」に奔った訳である。

「*川」君の両親ははらわたの煮えくり返る思いを耐えつつ、帰っていった・・・・・この時、お母さんはひどくうなだれていたという。

その後、「*川」君とお母さんは行方不明となった。そして更に二週間後、二人は「焼死体」として、警察に発見される事となった・・・・・・そう、旧阿部倉トンネル跡で・・・・・・遺体は相当の程度で炭化していたそうである。

結局、母親の「歯型」から身元が断定された。遺書は見つからなかったが、覚悟の無理心中と思われた。

「お母さんが「*川」君の頸静脈を鋭利な刃物切り裂き、絶命させた後、ガソリンをかぶって火をつけた」という事らしい・・・・・・

この後、小学校で「*川」君の話題がのぼる事は無くなった。学校側はほとんど何の対応もしなかった様である。全校集会は開かれなかった事は記憶している。

ただ、「今後の法的・マスコミ対応のため」なのか、遺体の身元が判った翌日、「終日自習」になった事を覚えている。

「*川」君のお父さんは狂った様に校長・担任教師に詰寄ったそうである。

「*枝も*之もお前らとお前らのクラスが殺したんだ!!!返せ!*枝と息子を返せ」と泣き崩れた・・・・

そして、十数年の時が流れた・・・・・・

「*田」、「*合」、「*西」の三人は大学生になっていた。

ある夏の日、彼らは偶然にも再会した。久しぶりに再開した三人は、酒を飲み、その勢いで「肝試し」する事となった。その場所は・・・・・そう、旧阿部倉トンネル跡・・・・彼らは「昔の事件」を忘れていたのだ。

深夜、トンネル跡についた三人は懐中電灯を片手にトンネル内に入っていった・・・・・・・・・

「あ・・・・・・そういえば・・・・」

と*合。

「何だよ。*合。」

と残りの二人。

「いや・・・・さ、ここって、*川とそのおっかさんが自殺した場所じゃなかったっけ・・・・・」
「!」
「?」
「おい、何が言いたいんだよ。」

と*田

「まさか、未だに恨んでいて、幽霊になってそこら辺彷徨い歩っていたりして・・・・」

と*西

「いやな事、思い出させるなよ!!」

と*田

「罪悪感はあるわけだ・・・・・そりゃあ、そうだろなぁ・・・・」

と*合

「ま〜るはっちん。チャランチャランチャチャチャ、チャランチャランチャチャチャ、まるはち〜ん。まるはち〜ん。」

と歌いだす*西。

「やめろよ!!いいかげんにせい!!」

怒鳴る*田。

「冗談冗談、気にすんなよ。」

と*西。

「んな事、ある訳無いじゃねーかよ。本気にするなよ〜♪」

と*合。

・・・・と、その時、かすかに声が聞こえてきた・・・・・・

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