第三十五話

語り部:胡桃 ◆oe2b98q9o6 ID:Tv2V5V620

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小学生の時 引越しした先であった話です

両親は物凄く頭の固い人で 幽霊や超現象など一切信じない人でした。なので引越し先が山を切り崩して新しく住居用に販売された土地でそこに新しく家を建てるときも「地鎮祭」と言うものを一切しなかったのです。

無事に家が建って引越しを済ませた後も

「何事もなく建ったから あんなもの(地鎮祭)は必要無かったでしょ」

と話をしていたのを覚えています。

けれど引越しして暫くしてからお風呂上りに脱衣所で髪を乾かしていると、自分より背の高い男の人が右斜め後ろの扉からジッとこちらを見ている気配を感じました。

当時兄弟は私より背が低かったので

「父親かな?」

と思い振り向いたのですが、微かに開いた引き戸に父親の姿がありません。

気のせいだと思って扉を閉めてから再び鏡に向かってドライヤーを使うと、先ほどと同じ「自分より背の高い男の人」の気配と視線を感じるのです。再び振り向いたのですが 扉は自分が閉めたままの状態でした。

両親は上記にも書いたとおり 超現象など一切信じない人たちなのでそんな話をしようものなら

「お前の精神が弱いからそう思うだけだ」

とか

「頭のおかしい子と思われるから止めなさい」

とか言われることが目に見えていたのと毎日必ず感じる訳でも無かったので 誰にも相談しませんでした。

高校生になったある夜。定期試験前だったので

「今日は2時くらいまで勉強するぞ」

とちょうど深夜の12時頃に自室の勉強机に向かうと、突然部屋の中央の床が「ミシッ」と家鳴りを起こしました。

人がその場に立った様な音だな…と思った瞬間。脱衣所で感じる男の人と全く同じ気配と視線を右斜め後ろ(部屋中央)から感じたのです。振り向いたけれど 当然誰もいませんでした。

絶対に気のせいだ 試験があるから勉強をしなきゃ

と自分に何度も言い聞かせて机に座り続けたのですが恐怖に負けて5分ほどでベッドへと潜り込みました。背中を向けなければその気配は感じなかったのでその日は仰向けになるように気をつけながら寝ました。

そして その日を境にその気配は一切感じなくなったのです。

それから2〜3年くらい後でしょうか…

「あなた昨夜夜中に一階に降りた?」

と神妙な顔をした母に聞かれたのです。両親よりも遅く寝ることが何度かあったのですが、母の指定した夜は両親より早く寝たので降りてないと答えると、幽霊や超現象など全く信じなかったはずの母が

「あなた最近『金縛り』なんかあったりしない?」

と凄く真面目な顔で聞いてきました。金縛りなど例の気配を感じている時は四六時中だったので

「昔は良くかかってたよ 今はほとんど無いけどね」

と答えると今度は

「今までに男の人が階段を降りる気配を感じたことは無い?」

と聞かれたのです。

母が言うには 随分前から夜中に階段を降りる気配(音?)を感じてその都度私が夜更かししてお茶を取りに行っているのだと思ってたそうです。(実際に私が降りていたこともあったので)

けれど時々 階段の最後の一段を降りない不思議な気配があって

「どうして最後の一段を降りないんだろう?」

と耳をすませると、私ではなく男の人の気配がしたらしいのです。

その話を聞いた時

「あぁ あの時私の部屋に上がってきた脱衣所にいた人だな」

と思って引越し当初から体験していた不思議な気配について初めて話をしました。

その話を聞いて母は なぜもっと早く相談しなかったと怒ったのですが、幽霊なんか言っても絶対に信じてくれなかったでしょ? と言うと さすがに黙ってしまいました。

さらに詳しく話しを聞くと母がその階段の気配を感じるだけでなく、父が毎晩のように金縛りにあっていたそうです。

そんな現象が両親に現れた時期を聞くと私が気配を感じなくなって暫くした後ということが発覚しました。

その後 家を建ててから実に10年以上経ってから神社からお札や土を貰いお祓いをして解決をしたのですが、決して敵意があるわけではない『彼』の視線は一体何を訴えていたのでしょうか。別の土地に引越しをした今でも 時々気になります。

[完]
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